Memories of summer

(side 英二)





『いつか必ず会いに来るから―――――俺の事忘れないでね』


長い間持ち続けてきた俺達の夢・・・全国NO.1ダブルスの夢も叶い

俺達の熱い戦いも終わりをつげて・・・短い夏休みが訪れた・・・

と思ったのにさ・・・

その前に部長を決めたり副部長を決めたりと引き継ぎをしなきゃいけないって事で 結局大石は大忙しで・・・

それはやっともぎ取った貴重な休みの日だったんだ。




「大石。この水草どうすんの?」

「あぁそれはここに入れておいてくれないか」

「んじゃこの魚は?」

「えっと・・・それは・・・」




大石が自分の作業の手を止めて、俺の横に来る。

水槽の掃除なんて普段やりなれない俺は、1つ行動を起こすたびに大石に聞かなきゃどうしていいかわかんなくて、そのつど大石に聞くんだけど

説明するよりやって見せた方が早いって言って結局は俺が手伝おうと思っていた事を大石が全部やっている。

だけどこれってさ・・・余計に手間かかってるよな?



「大石?」

「ん?何だ?」

「俺さ。大石の部屋で待ってるよ。その方が掃除早く終わるんじゃない?」

「えっ?あぁ・・・そうだな。じゃあ急いでするから部屋で待っててくれる?」

「うん。じゃあ待ってるね」



そう言って俺は風呂場に大石を残して、部屋へと向かった。




ホントはせっかくの休みだから、何処かへ遊びに行きたいって言おうとしたんだけどさ

大石の奴が水槽を掃除したいって言い出して・・・

俺としては空気読めよ!やっともぎ取った夏休みなんだぞ!って気持ちもあったんだけど

こんな日でもなきゃゆっくり水槽の掃除出来ないからって先に言われてしまうと

う〜仕方ないにゃあ・・・って俺は遊びたい気持ちを大石にぶつける前に押さえたんだ。

そして今、俺は大石の家にいる。







しかし・・・待ってるのも暇だよな・・・

俺は徐に大石の本棚をチェックして、もう既に読んでしまった雑誌を取った。

それをゴロンと横になって、ペラペラと捲る。



「ハァ〜〜もうこれも何度も見ちゃったしな・・・・」



結局パタンと閉じて、うつ伏せになった。

他に読んだ事の無い本なんて・・・ないよな・・・

普段何かと大石の家に来ては、色々物色している。

だから俺の知らない本なんて・・・・・


目を瞑ろうとした時に、本棚の一番下の右隅にあるアルバムが目に入った。


アルバム・・?

そういえば大石のアルバムって見た事なかったよな・・・


大石がいないのに勝手に見るのは不味いかな?と思いつつも気付いてしまうと気になって仕方が無い。


う〜〜〜〜〜ん・・・・やっぱ大石に聞いてから見るべきだよな?

だけど下まで行くの面倒だし・・・まっいいか。

大石もアルバム見られたぐらいで怒んないよな。


俺は自分の中で勝手に結論付けて、アルバムに手を伸ばした。



「ホエ〜〜可愛いっっ!!」



一番最初に目に飛び込んできたのは、生まれたばかりの大石。

お母さんに抱かれて微笑んでるように見える。



「大石にもこんな時があったんだな」



微笑みながら眺めて、次は・・・とどんどん捲って行く。

お宮参り・・・1歳頃、2歳頃、3歳頃どんどん大きくなるにつてれて小さい大石の中に

今の大石の片鱗が見え出して可笑しい。



「うわぁ!これなんて、もう大石じゃん!」



小学校入園の時の写真を見ながら思わず叫んでしまった。

そこには真面目で人が良さそうな顔をした小さな大石が制服を着て立っている。



「きっとこの頃から大石の奴、生真面目で賢かったんだろうな」



ニャハハハと笑ってると、大石の部屋のドアが開いて大石が入って来た。



「誰が生真面目で賢かったって?」



机にトレーを置きながら大石が聞いて来る。



「大石に決まってんじゃん!」



俺は答えながら、アルバムのページを捲った。

それにしても大石のアルバムは分厚くてしっかりと整理されている。

この分だと小学校卒業ぐらいまでは、このアルバムに貼ってあるんだろうな・・・

俺のアルバムとは大違いだ。


俺のアルバムなんて誕生日やイベントに辛うじて撮った感じのばかりで枚数も少ない。

大家族の末っ子と二人兄妹の長男とじゃこんなにも違いが出るのか・・・?

それとも母親の性格の問題か・・・・?

母ちゃん・・・大雑把だもんな。



「なんだ。アルバムを見ていたのか」



複雑な思いに駆られていると、ガラステーブルの上にジュースとお菓子を並べ終えた大石が覗き込んできた。



「あっそうだ。ごめん。勝手に見ちゃって」

「えっ?あぁいいよ。それにしても懐かしいな」



大石は勝手にアルバムを見た事は気にも留めず、懐かしそうに目を細めてアルバムを見ている。



「大石。見るの久し振りなの?」



あまりにも懐かしそうに目を細める姿に聞くと、大石が小さく頷いた。



「あぁ二年は見てないかな・・・それより何処から出てきたんだ?」

「その本棚の一番下の右隅」

「一番下の右隅か・・・すっかり忘れてたな」



大石はそのまま俺の隣に腰を下ろした。
















「うわっ!この大石も絆創膏だらけじゃん」



ジュースを一気に飲み干して俺がアルバムに指をさすと、大石は『ハハハ・・・』と苦笑している。

5年生に上がった頃の写真から大石の様子が変わった。

いかにも真面目で優等生な姿とは似合わない生傷と・・・あからさまに増えた絆創膏。

最初はスルーしていたけど、流石にもうスルー出きない。


まさかね・・・大石に限ってそんな事はないと思うけど・・・


俺は恐る恐る聞いた。



「大石。ひょっとしてさ・・・虐められてたりしないよね?」



もしそんな事があったとしたら・・・

俺がそいつら全員見つけ出してギタンギタンにしてやる!!


なんてちょっと思ったけど、大石は鼻の頭をかきながらポツリと言った。



「その逆かな・・・」

「へっ?」



逆・・・虐めてたって事?

それって・・・・?


虐められてなかったのは良かったけど、大石らしくない答えに大石をジッと見る。



「あっ虐めてた訳じゃないぞ」



大石は俺の目を見て慌てて、継ぎ足すように答えた。



「なんていうか・・喧嘩の仲裁に入ったら、いつの間にか俺も仲間になっていたというか・・」



フ〜〜〜ンなるほどね。



何となく見えてきたぞ。

虐められいた訳じゃなく・・・逆って言った意味が・・・

そんでもって虐めてた訳じゃないっていう意味が・・・



「心優しい正義感の強い大石くんは、仲裁に入って両方とも征しちゃうんだ」



大石はこう見えて、意外と喧嘩が強い。

いつだったか違う中学の奴に絡まれた時も、最初は謝ってたくせに俺に手を出した奴がいて・・・・キレた。

あの時の大石はホントに凄かったな・・・

普段はこんなに温厚なのに・・・うううう思い出しても怖い。

兎に角・・・小学生の喧嘩を言葉で止めるなんて出来なくて、体張ってたんだな。

そんで巻き込まれて、勝っちゃうんだ。

大石らしいというか・・・・



「あの頃は言葉で止めても、なかなかみんな聞いてくれなくて・・・」



大石が頭をかく。



「まっいいじゃん。それでも結局は仲裁出来たんだろ?」

「出来たというか・・・何というか・・・一応は納まってたけど・・・」

「ならそれでいいじゃん」

「まぁ・・・・うん。そうだな・・・」



大石が複雑な笑顔を見せている。

何ていうか・・・・生傷&絆創膏の原因はわかった・・・

やっぱり大石は大石だなって事。

それよりもさ、こっちの方がだんだん気になって来たぞ。

最初は大石の傷ばかりに目を取られて気付かなかったけど・・・5年生になった頃から

大石の隣に写ってる奴・・・全部同じ奴じゃないか?

女の子の様な顔をした・・・でも制服は男のだから・・・男だよな?

それにコイツも大石の様に生傷が絶えないっていうか・・・

コイツはいったい誰なんだ?

青学にはいないよな?



「大石。それよりコイツ誰?」

「ん?どれ?」



大石が覗き込む。



「あぁ。5年生の時に同じクラスだった。神田伊織くん。懐かしいなぁ。

元気にしているんだろうか?」

「仲良かったの?」

「あぁ。出席番号が近かったのと・・伊織くんがとても喧嘩っ早い子でね。

 よく仲裁に入っていたら。自然と仲良くなっていた・・・って感じかな。

でも6年生に上がる頃に、引っ越して行ったよ。」



ほう・・・仲裁ね・・・



「ふ〜〜〜ん」

「伊織くん少し体が弱くてね。それで長野の方に・・・」

「へ〜〜〜〜」



なんだよ・・・さっきの話・・・

大石の生傷の原因ってコイツじゃないのか?



「ん?英二」

「何?」

「怒ってる?」

「どうして?」

「どうしてって・・・・・・」



大石が戸惑った顔を俺に向ける。

だけどさ・・・こういうのはわかってても勝手に湧いてくる感情じゃん。

大石が昔から世話焼きだって事は、よーーーーーーーくわかったよ。

でもそれが個人に向けられてるのが・・・昔の話とはいえ何だかムカムカする。



「英二?」



それにちょっとコイツ可愛いし・・・



「大石さぁ・・・まさかコイツに惚れてたって事ないよね?」

「はっ?」

「だからコイツが初恋の相手とか言わないよね?」

「なっ何馬鹿な事言ってるんだよ!そんな訳ないじゃないか」



大石があからさまに動揺した。

何でそこでどもるんだよ・・・



「怪しい・・・」

「怪しいって・・・伊織くんは男だぞ」

「俺も男じゃん!」



俺の言葉に大石が肩を落とす。



「・・・英二いい加減にしろよ。英二は特別だろ?

それに俺は別に男が好きな訳じゃないし・・・」

「じゃあ女がいいんだ?」

「だから・・・そういう訳じゃなくて、英二だから好きになったんだろ!」



大石が俺の目をジッと見据える。

そりゃあ・・・俺だってそうだよ。

男だからとか女だからとか、そんなの関係ないよ。

大石だから好きになったんだよ。

大石だからいいんだよ。

だけど・・・だけど・・・



「チェッ・・・もういい」



俺が大石から目線を外すと、大石は小さく溜息をついて立ち上がった。



「英二・・・ほら、おいで」



大石の言葉に顔を上げると、大石が手を差し出している。

俺は渋々、大石の手を握った。



「うわっ!」



その瞬間凄い力で引き上げられて、俺はそのまま大石に抱きしめられた。


へっ?何・・・?



「英二。拗ねるなよ。昔は昔。今は今。今俺の隣にいるのは英二だろ?」



大石・・・・


大石の声が右耳を掠める。



「うん」

「それに俺が好きなのは英二だけだよ」

「うん」



優しい大石の声。

何だか拗ねた自分が恥ずかしい・・・



「わかってくれたなら・・・もう拗ねるなよ英二」

「すっ拗ねてないよ!」



俺が顔を上げると、大石がイタズラっぽく笑っている。



「じゃあ・・やきもち?」

「ちが・・・」



大石が優しく微笑んだ。



「英二。今日のふわふわオムレツ期待してるから」

「うん」



そうだよな・・・

今日は久々に大石の家族もいない、本当に二人っきりで過ごせる日なのに

小さい時の写真見て妬く事なんてないんだ。


昔は昔・・・今は今



「英二・・・・」



大石が少し真面目な顔で俺を呼ぶ。



「大石・・・」



俺は大石の目を見つめ返して、そのまま目を瞑った。






お待たせしました・・・久々の大菊vv


今回無駄に長いですが(当社比)ついてきて頂けると嬉しいです。

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